私が11秒3の選手より11秒6の選手に期待する理由

指導論

指導者をしていると、

「どの選手が伸びそうですか?」

と聞かれることがあります。

そんな時、私は少し困ります。

なぜなら、タイムだけでは判断できないからです。

実際、私は11秒3の選手より11秒6の選手に期待することがあります。

もっと言えば、13秒の選手に積極的に声をかけることもあります。

もちろん速い選手を軽視しているわけではありません。

むしろ逆です。

今回は、私がタイムだけで選手を見ない理由について書いてみたいと思います。


私が見ているのは変化率

私は試合結果を見ないわけではありません。

当然、記録は大切です。

しかし、私が本当に見ているのは別の部分です。

それは、

  • 考えているか
  • 変化しているか
  • 修正しようとしているか

です。

例えばドリル。

一週間前と比べて動きが変わっているか。

指摘されたことを試しているか。

自分なりの解釈を持とうとしているか。

私はそこを見ています。

逆にタイムが速くても、

ずっと同じ動きのまま。

質問もしない。

考えもしない。

そんな状態なら声をかけます。

それは11秒3でも13秒でも変わりません。


指導初年度の部長

私が指導を始めた最初の年。

3年生の部長がいました。

その選手は高校2年まで、どう頑張っても100m12秒台だったそうです。

決してエースではありません。

しかし、ドリルを教えると一週間ほどで動きが変わりました。

何度も試し、何度も確認していました。

分からないことがあれば質問もしてきました。

私はその変化を見て、

「この選手は伸びるな」

と思いました。

私が見ていたのはタイムではありません。

変化する力でした。


私が13秒の選手に声をかける理由

誤解してほしくないことがあります。

私は11秒6の選手をひいきしているわけではありません。

むしろ11秒3の選手にも積極的に声をかけます。

ただ、その基準はタイムではありません。

考えていないからです。

私は、

速いから見る。

遅いから見ない。

ということはしません。

逆です。

考えていないから見る。

質問できないから見る。

困っていそうだから見る。

です。

引っ込み思案な選手には、よく目を合わせます。

本当に聞きたいことがある時は、そのまま寄ってきます。

逆に今は大丈夫なタイミングなら来ません。

私はその反応を見ています。


中学時代に聞いた言葉

私が中学時代に所属していたサッカー部で、よく言われていた言葉があります。

「2軍が強くならないとチームは強くならない」

という言葉です。

当時は何となく聞いていました。

しかし今は、その意味がよく分かります。

なぜなら、1軍が一番試合をする相手は2軍だからです。

どれだけエースが強くても、

毎日の練習で競い合う相手がいなければ成長しません。

強い相手と試合をすることも大切ですが、

日々の練習で張り合う相手の存在はそれ以上に大切です。


陸上も同じだった

陸上は個人競技です。

しかし私は同じだと思っています。

100mのエースが伸びるためには、

その選手に食らいつく選手が必要です。

1番手がいる。

2番手がいる。

3番手がいる。

そして、その背後から追いかける選手がいる。

そうすると練習に張り合いが生まれます。

自然と競争が起きます。

結果として全体が伸びます。

逆にエースだけが速くても、

周囲との差が大きすぎると競争が起きません。

それでは思ったほど伸びないのです。


4番手がチームを変えた

実際に私が指導したある学年では、

1番手と2番手はある程度決まっていました。

しかし3番手と4番手の争いが起きました。

本来であれば個人種目に出場できない立場です。

それでも互いに競い合い、

結果として2番手を脅かすほどまで成長しました。

私は今でも、その学年が強かった理由の一つはこの競争だったと思っています。

その代は、

高2新人、高3インターハイともにリレーで東北大会へ進出しました。

エースだけでは到達できなかった結果です。


一番嬉しかったこと

さらに嬉しかったことがあります。

その選手たちは卒業前、

「もう陸上はやりません」

と言っていました。

ところが今も競技を続けています。

そのうちの一人は、現在私と同じ社会人チームで競技を続けています。

私は県大会で勝つことも大切だと思っています。

東北大会も目指したい。

しかし、それと同じくらい嬉しいことがあります。

競技を続けてくれることです。

卒業後も陸上を好きでいてくれることです。


まとめ

私は11秒3の選手より11秒6の選手に期待することがあります。

しかし、それはタイムの話ではありません。

私が見ているのは、

考えているか。

変化しているか。

修正しようとしているか。

です。

そして、エースだけを育ててもチームは強くならないと思っています。

中学時代に聞いた、

「2軍が強くならないとチームは強くならない」

という言葉を今でも大切にしています。

陸上も同じです。

エースが伸びるためには、食らいつく選手が必要です。

だから私は今日も、タイムではなく「その選手が変われるか」を見ています。

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