私が100m10.70で走るようになるずっと前の話です。
高校1年生の冬だったと思います。
その日もいつも通り部活を終え、ママチャリで帰宅していました。
特別な日ではありません。
大会前でもありません。
ただの練習日です。
そして私はいつも通り思っていました。
「早く帰りたいな」
と。
当時から聞いていた言葉
高校時代、私は先生から何度も言われていました。
「腰の切り替えだ」
と。
今では私自身も選手に伝えている言葉ですが、当時は正直よく分かっていませんでした。
言葉としては知っている。
でも感覚が分からない。
そんな状態でした。
また、当時は一つ上に東北大会へ出場する競歩の先輩がいました。
私は何気なく、
「どうやって歩いているんですか?」
と聞いた記憶があります。
今思えば、その時から少しずつヒントを集めていたのかもしれません。
ママチャリの上で起きたこと
帰り道。
私は早く帰りたかったので立ち漕ぎをしていました。
その時です。
ふと違和感がありました。
違和感というより発見でした。
気付いたら腰がペダルの真上に来ていたのです。
そして、その状態になると勝手にペダルが踏める。
力を入れている感覚ではありません。
体重が乗る。
すると勝手に進む。
そんな感覚でした。
今振り返れば、それが私にとって初めて腰の切り替えを理解した瞬間だったのだと思います。
翌日の練習
翌日。
特別なことはしていません。
いつも通り練習しました。
しかし感覚が違いました。
何が違うのかは説明できません。
ただ、
「昨日までと違う」
ということだけは分かりました。
フォームも少し変わった気がしました。
接地感も変わった気がしました。
そして結果としてタイムも伸びていきました。
もちろん、その日のうちに速くなったわけではありません。
しかし今振り返ると、あの日が大きな分岐点だったと思います。
今だから分かること
当時の私は、
前回転も知りません。
加重も知りません。
接地音も知りません。
軸という考え方もありません。
ただ、
「腰がペダルの真上に来たら勝手に進む」
という感覚があっただけです。
しかし社会人になり、競技を続け、指導を続ける中で気付きました。
私が今選手に伝えていることの多くは、あの日感じた感覚につながっています。
腰の切り替え。
前回転。
加重。
どれも別々の技術ではありません。
あの日ママチャリの上で感じた感覚を、少しずつ言語化しているだけなのかもしれません。
もしあの日気付かなかったら
たまに考えます。
もしあの日、立ち漕ぎをしていなかったら。
もしあの日、もう少し遅く気付いていたら。
私は100m10.70まで伸びていただろうか。
正直分かりません。
ただ一つ言えることがあります。
競技力を大きく変えるきっかけは、必ずしも練習中にあるとは限らないということです。
何気ない日常。
部活帰りのママチャリ。
そんな場所に転がっていることもあります。
私にとっては、それがあの日の立ち漕ぎでした。
そして今も私は、高校生たちに同じ感覚を伝えようと試行錯誤を続けています。
あの日のママチャリで覚えた感覚が、今でも私の指導の原点です。
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