100mで初めて10秒台を出した日のことは今でもよく覚えています。
記録は10秒97。
高校3年時の県大会準決勝で出した11秒08を、6年ぶりに更新したレースでした。
ゴールした瞬間は普通に叫びました。
「よし!!!」
ずっと目標だった10秒台。
ようやく辿り着いた瞬間でした。
ただ、その日の練習メモにはこう書いてあります。
「内容20点」
今見返しても意味が分かりません。
10秒台を出した選手の感想ではないからです。
10秒台は憧れから目標になった
10秒台に強い憧れを持ったのは高校2年の県新人でした。
決勝に進むと、上位選手のほとんどが10秒台。
その光景を見て、
「このレベルで戦うには10秒台が必要なんだ」
と感じました。
ただ、その頃はまだ遠い世界の話でした。
引退レースとなった高校3年の県大会では11秒08。
当時の自己ベストです。
いつか10秒台を出したい。
そう思っていました。
まさかそこから6年かかるとは思っていませんでしたが。
「11秒台に人権はない」と思っていた大学時代
大学に進学すると環境は大きく変わります。
主戦場は関東。
当時の関東インカレ2部B標準は10秒85前後でした。
周囲には10秒台の選手が当たり前のようにいました。
今思えば極端ですが、当時の私は本気で
「11秒台に人権はない」
と思っていました。
100mという種目そのものが好きだったというより、自分が速いからやっていた感覚の方が強かったからです。
速くないなら面白くない。
10秒台で走れないなら価値がない。
承認欲求のために走っていたと言われても否定できません。
やがて競技への熱は冷めました。
環境も十分に整えられず、一度競技から離れます。
もう速くならない。
そんな風に思っていた時期もありました。
6年ぶりの自己ベスト
その後、高校時代に同地区で戦っていた仲間たちと再び競技を続ける環境ができました。
決勝で隣のレーンにいた選手。
名前を聞けば顔が浮かぶような選手。
そんな仲間たちともう一度競技ができる。
それは思っていた以上に楽しいものでした。
そして迎えたレース当日。
朝から大雨でした。
外に出ることも難しいほどの悪天候。
決して好条件とは言えません。
そんな中で走った100m。
結果は10秒97でした。
一番嬉しかったのは「おめでとう」だった
インスタに投稿すると、多くの人から連絡が来ました。
高校時代の先輩。
後輩。
同級生。
一緒に陸上を続けてきた仲間たちです。
高校時代の唯一の男子部員にも勢いでLINEしました。
今振り返ると、一番嬉しかったのは記録そのものではなかったのかもしれません。
その人たちからの
「おめでとう」
でした。
彼らは10秒97という数字だけを見ていたわけではありません。
高校時代の11秒08も。
大学で苦しんだことも。
競技から離れた時期があったことも。
全部知っています。
だから、その言葉は特別でした。
あの日初めて、
努力が報われたような気がしました。
それでもメモには「内容20点」
しかし、その日の練習メモにはこう書いてあります。
「内容20点」
スタート直後でバランスを崩している。
後半は重心が下がっている。
理想の走りとは程遠い。
実際、今動画を見返しても評価は20点です。
面白いことに、理想の走りのイメージは当時からほとんど変わっていません。
では、なぜそんな内容で嬉しかったのでしょうか。
答えは簡単です。
まだ速くなれると思ったからです。
むしろ、
「もう一本走れたらその場でベスト更新できる」
と本気で思っていました。
大雨。
大きなミス。
それでも10秒97。
悲観する理由がありませんでした。
帰り道に考えていたこと
10秒台を出した帰り道。
私は余韻に浸っていたわけではありません。
ずっと動画を確認していました。
そして修正案を考えていました。
ここを直せばもっと速くなる。
あそこを改善すれば次は更新できる。
そんなことばかり考えていました。
だから10秒97はゴールではありませんでした。
スタートでした。
今振り返って思うこと
実際、その後は10秒79、10秒74、10秒70と記録を更新していきます。
そして今振り返ると、この考え方は指導にも繋がっています。
私は11秒3の選手より11秒6の選手を評価することがあります。
タイムではなく内容を見るからです。
今どれだけ速いかではなく、どこまで伸びる余地があるかを見るからです。
初めて10秒台を出した日のメモに「内容20点」と書いていたのも同じでした。
10秒97という結果の先に、まだ伸びる可能性が見えていたからです。
もちろん10秒台は嬉しかった。
ずっと目標だった数字です。
でも、それ以上に嬉しかったのは、
努力を知っている人たちに結果を見せることができたこと。
そして、
「まだいける」
と思えたことでした。
だから私にとって10秒97は夢の達成であり、新しいスタートラインでもあったのです。
そして今でも、その日の動画を見返すたびに思います。
「内容20点だな」
と。
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