高校3年の県総体準決勝。
私にとって高校陸上最後のレースでした。
当時の自己ベストは11秒16。
決勝進出を目指していましたが、そのレースで私は初めて不思議な経験をします。
「勝てない」と思った瞬間に力が抜け、結果として自己ベストが出たのです。
当時はなぜ速く走れたのか分かりませんでした。
しかし社会人になり、10秒台を出し、指導者になった今なら少しだけその理由が分かります。
今回はそんな高校最後のレースの話です。
60mで勝負が決まったと思った
私は当時、典型的な前半型の選手でした。
スタートから60mくらいまでは自信がありました。
しかし県総体準決勝。
60m付近で前の選手との差を感じました。
「あ、これは勝てないな」
そう思ったのを今でも覚えています。
もちろん、その瞬間に諦めたわけではありません。
60mから80mまでは必死に食らいつこうとしていました。
ですが差は縮まらない。
そして残り20m。
高校生として走るのもこれで最後なんだろうなと思いました。
当時の私は頑張るしかないと思っていた
当時の私は、とにかく頑張るタイプの選手でした。
後半苦しくなったら腕を振る。
脚を動かす。
気持ちで前に進む。
速く走るためには、それしか方法がないと思っていました。
実際、多くの選手もそうではないでしょうか。
苦しい場面になればなるほど頑張る。
私もそうでした。
だからこそ、そのレースで起きたことは自分でも不思議でした。
最後の20mで力が抜けた
勝てない。
もう終わりだ。
そんな気持ちになった時でした。
ふっと力が抜けたのです。
もちろん完全に脱力したわけではありません。
接地では力が入っています。
しかし空中では余計な力が抜けていました。
いつも感じていたようなブレーキ感がありません。
身体が自然に前へ進んでいく感覚でした。
今動画を見返しても、その区間だけ明らかに力みが少なくなっています。
当時は言葉にできませんでしたが、確かにいつもとは違う走りでした。
結果は4着。でも自己ベストだった
結果は4着。
決勝進出はできませんでした。
準決勝全体でも10番目前後だったと思います。
悔しさがなかったわけではありません。
ただ、それ以上に驚きがありました。
タイムは自己ベスト。
高校最後のレースで11秒16を更新したのです。
なぜ速かったのか。
当時の私には全く分かりませんでした。
ただ、
「頑張ったから速くなったわけではない」
ということだけは分かりました。
恩師と話した「脱力」のこと
レース後、恩師にその話をしました。
最後に力を抜いたら速かった。
そんな話だったと思います。
すると恩師は笑いながら、
「そうだな」
と言いました。
特に長い説明はありませんでした。
今思えば、あの一言には全てが詰まっていたのかもしれません。
当時の私は理解できませんでしたが、その感覚はずっと頭の片隅に残っていました。
社会人になってようやく答え合わせができた
社会人になり競技を続け、初めて10秒台を出した時。
私は高校最後のあのレースを思い出しました。
そしてようやく答え合わせができた気がしたのです。
あの時起きていたのは、
「諦めたから速くなった」
のではありません。
出力と脱力の切り替えが上手くいった結果でした。
接地では出力する。
空中では脱力する。
必要なところだけ力を使い、それ以外では力まない。
その切り替えが身体を前へ運んでいたのです。
今の指導にも繋がっている
今、私が選手によく言う言葉があります。
「頑張りすぎるな」
です。
もちろん手を抜けという意味ではありません。
必要なところで力を使い、
必要のないところでは力を抜く。
その切り替えが大切だと思っています。
ミニハードルもそう。
腰の切り替えもそう。
加重もそう。
根本にある考え方は同じです。
実際、今指導している選手の中にも、力みが抜けた瞬間に大きく動きが変わる選手がいます。
200mで地区優勝した選手もその一人でした。
だから私は今でも「頑張れ」より先に、「頑張りすぎるな」と伝えています。
高校時代の自分に伝えたいこと
もし高校時代の自分に一言だけ伝えられるなら、
こう言います。
「頑張りすぎるな」
速く走るために必要なのは、力を出すことだけではありません。
力を抜くこともまた技術です。
高校最後のレースで感じたあの違和感は、今振り返ると競技人生の中でも大切な感覚だったのだと思います。
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