100mを怖がらなかった選手が伸びた理由

指導論

はじめに

指導者をしていると、

「この選手は100m向きだな」

と感じる選手がいます。

前回も紹介した選手がその一人でした。

高校2年時に100m10秒87を記録し、県インターハイでは7位入賞。

その後は大学に推薦で進学し、現在も競技を続けています。

前回の記事では、技術的な部分や身体的特徴について書きました。

今回は少し違う視点から、この選手がなぜ伸びたのかを考えてみたいと思います。


私は最初から100m向きだと思っていた

実は私は、この選手を最初に見た時から100m向きだと思っていました。

もちろん当時は10秒台を予想していたわけではありません。

しかし、走りの雰囲気や身体の使い方を見た時に、100mで勝負できる可能性を感じていました。

一方で面白かったのは、レースの考え方です。

この選手は100m選手でありながら、どこか400m選手のような考え方を持っていました。

高校3年時には地区総体400m優勝も果たしています。

だからこそ、一般的な100m選手とは少し違う部分がありました。


前半で負けても慌てなかった

100mではスタートが重要です。

高校生のレースを見ていると、前半で置いていかれることを極端に嫌がる選手も少なくありません。

すると力みが生まれます。

本来の動きができなくなります。

そして後半で失速します。

しかし、この選手にはそれがほとんどありませんでした。

仮に30mや40mで横に速い選手がいても、自分のレースを崩さない。

焦らない。

慌てない。

100mという競技に対して、必要以上の恐れを持っていなかったように感じます。

これは大きな強みでした。


勝負は60mからだと思っていた

もちろん本人がそう言っていたわけではありません。

しかしレースを見ていると、そんな印象を受ける選手でした。

前半で勝負を決めようとしない。

60m付近から徐々に伸びていく。

そして最後まで動きが崩れない。

実際に10秒87を記録したレースでも、周囲にはさらに速い選手がいました。

前半から飛び出す選手もいました。

しかし、その流れに飲み込まれることなく、自分の走りを続けていました。

結果として中間疾走からフィニッシュにかけて伸びていく。

非常にこの選手らしいレースだったと思います。


同じ遺伝子でも伸び方は違う

この選手には一卵性双生児の弟がいます。

弟も陸上競技を続けており、専門は110mハードルです。

100mでも11秒0台を記録しています。

一卵性双生児ということは、遺伝的には非常に近い存在です。

しかし、競技環境は異なっていました。

兄は私が指導する環境。

弟は走り込みを多く行う環境。

当然ながら練習内容も違います。

どちらが正しいという話ではありません。

実際に二人とも高いレベルで競技を続けています。

ただ、同じような身体的特徴を持ちながらも、成長の仕方やレースのスタイルには違いがありました。

その姿を見ていると、改めて選手は一人ひとり違うのだと感じます。


指導者として学んだこと

私は選手だった経験があります。

だからこそ、自分がうまくいった方法を伝えたくなることがあります。

しかし、この選手と私はタイプがまったく違いました。

私は足首が柔らかく、骨盤も寝やすいタイプです。

レースでは起き上がりから徐々に加速していく感覚がありました。

一方で、この選手は足首が硬く、骨盤も立っているタイプです。

そして本当に速くなるのは中間疾走からでした。

感覚も身体の特徴も違います。

だからこそ学ぶことがありました。

指導者は無意識のうちに、自分の理想の走りへ近づけようとしてしまいます。

しかし、本当に大切なのはその選手自身の特徴を理解することなのかもしれません。

この選手は、それを改めて教えてくれました。


忘れられない県選手権

この選手が10秒87を記録した県選手権は、私にとっても特別な大会です。

その大会では私自身も出場していました。

そして準決勝で同じレースを走ることになりました。

教え子と同じスタートラインに立つ。

なかなか経験できることではありません。

指導者としても競技者としても活動していたからこそ味わえた、忘れられない経験です。


まとめ

この選手が伸びた理由は、技術だけではありません。

もちろん練習や身体的特徴も大切です。

しかし、それ以上に印象に残っているのはレースとの向き合い方です。

100mという競技を怖がらない。

前半で慌てない。

自分のレースを続ける。

簡単なようで、とても難しいことです。

指導者として振り返った時、私が学ばせてもらったことも少なくありません。

これからも選手一人ひとりの特徴と向き合いながら、その選手に合った成長の形を探していきたいと思います。

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