気付いたら文化を残した世代になっていた

指導論

県大会が終わった。

毎年この時期になると、

「この代はどんな世代だったのだろう」

と考える。

全国大会へ行った世代もあった。

県大会で活躍した世代もあった。

では今年の3年生はどうだったのか。

もちろん、この世代にも速い選手はいた。

100m11秒台前半の選手もいる。

地区や県で戦った選手もいる。

しかし私がこの世代を思い返した時、最初に浮かぶのは記録ではない。

この代は中学時代にしっかり陸上を経験してきた選手が少なく、初心者や途中から競技を始めた選手が多かった。

そんな世代だった。

だからこそ私は、この世代が残したものは大きかったと思っている。

最初から文化を作ろうと思っていたわけではない

私が指導を始めた頃に考えていたのは単純だった。

選手を速くしたい。

それだけだった。

自分自身が競技で遠回りをしてきた。

だから同じ苦労をさせたくなかった。

さらに私は週5日すべての練習を見ることができない。

どうにかして、いない日も選手の状態を把握できないだろうか。

そう考えて始めたのが練習メモだった。

最初は実験だった。

文化を作ろうなんて考えていない。

選手を速くするための一つの手段だった。

一人の選手がいた

この世代を語る上で忘れられない選手がいる。

中学時代は別競技で活動していた選手だった。

高校に入り、

もっと高いレベルで学びたいと考え、

短距離へやってきた。

他の選手より遅れてスタートした。

だから焦りもあったのだと思う。

そして誰よりも練習メモを書いた。

誰よりも動画を見た。

誰よりも考えた。

誰よりも改善しようとしていた。

最初は上手くなかった

誤解してほしくない。

最初から優秀だったわけではない。

むしろ逆だった。

最初のメモは長かった。

何を言いたいのか分からないくらい長かった。

周りからいじられることもあった。

私自身も、

「整理できるようになったらもっと良くなる」

と伝えた記憶がある。

それでも書き続けた。

だから少しずつ変わっていった。

自分だけで終わらなかった

私が印象に残っているのはここである。

その選手は自分のメモだけを見ていたわけではない。

他の選手のメモも読んでいた。

良い部分を探していた。

しかも先輩だけではない。

後輩からも学んでいた。

誰から学ぶかではなく、

何を学べるかで見ていた。

私はその姿勢がとても印象に残っている。

気付けば周りが変わっていた

その選手はチーム最速ではなかった。

今でもどちらかと言えばいじられキャラである。

それでも周りは変わった。

なぜか。

その選手が成長していたからである。

特別な才能があったわけではない。

圧倒的な実績があったわけでもない。

それでも、

考えて、

振り返って、

改善し続けていた。

その姿を周りが見ていた。

すると、

動画を見る選手が増えた。

質問する選手が増えた。

考える選手が増えた。

改善しようとする選手が増えた。

私は文化を作ろうとしていたわけではない。

でも気付いたら文化ができていた。

今の1年生はその文化の上に立っている

今の1年生は、

練習メモという存在を最初から知っている。

動画を見ることも知っている。

質問することも知っている。

もちろん全員が最初から受け入れるわけではない。

抵抗がある選手もいる。

それでも3年前とは違う。

当時は文化そのものが存在していなかった。

今は先輩が後輩へ伝えることができる。

それだけでも大きな変化だと思う。

この世代が残したもの

この世代は全国大会へ行った世代ではない。

県チャンピオン世代でもない。

しかし、

動画を見る文化を残した。

考える文化を残した。

質問する文化を残した。

改善する文化を残した。

文化はまだ完成していない。

もっと良い伝え方もあるだろう。

もっと良い仕組みもあるだろう。

それでも、

3年前には存在しなかったものが今はある。

それは間違いなく、この世代が残した財産だ。

来年になれば、

また新しい文化が生まれるかもしれない。

でも、その最初の一歩を作ったのは今年の3年生だった。

そして私は、

そんな少し変わった選手たちがいなくなるのを少し寂しく思っている。

きっと文化というのは、

こういう人たちによって作られていくのだと思う。


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